「利益を出すのは悪なのか?」理念を実現するために院長が知るべき利益の本質
医療従事者不足の深刻化や度重なる診療報酬改定など、クリニック経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。そんな激変する医療業界において、開業を志すドクターや若手院長が必ず直面し、深く頭を悩ませる「大きな問い」があります。
それが、「クリニックの利益を残すべきなのか、それともスタッフの給料を上げるべきなのか」というジレンマです。
7月12日に開催された開業医コミュニティ「いせこみゅ」の勉強会では、まさにこの「利益の本質」をテーマに、リアルな戦略と経営哲学が飛び交う熱いディスカッションが行われました。多くの院長が陥りがちな「利益を出すことへの罪悪感」を払拭し、クリニックを真の成功へと導くためのマインドセットをお届けします。
利益があるからこそ、地域医療を長く守り続けられる
経営をスタートすると、「利益を追求することは悪いことなのではないか」「自分の利益を削ってでもスタッフの給料を上げ続けるのが、理想の院長像なのではないか」と自問自答する瞬間が訪れます。真面目で医療に熱心なドクターほど、お金の話に抵抗を感じてしまう傾向があります。
しかし、結論から言えば、利益を出すことを恐れる必要はまったくありません。なぜなら、十分な利益がなければクリニックの未来を守り、患者に医療を提供し続けることは不可能だからです。
利益が手元にあるからこそ、院長は以下の重大なアクションを起こすことができます。
- 優秀なスタッフを採用し、未来のチームを作ることができる
- 一時的なお墨付きではなく、持続的な昇給や賞与の支給を続けられる
- 最新の医療機器をタイムリーに導入・更新し、医療の質を担保できる
- 新しい医療への挑戦や分院展開など、次なる成長への投資ができる
- 何より、クリニックを存続させ、地域医療を長く守ることができる
「待っていれば自然と患者が来る」という時代はすでに終了しました。医療機関の倒産が過去最多を更新する今、利益(内部留保や運転資金)を軽視したクリニックは、予期せぬリスクに対応できず破綻してしまう恐れがあるのです。
「もし利益が1,000万円あったら」あなたは何を最優先にするか?
勉強会の中では、参加した先生方に向けた実践的なワークとして、「もし手元に1,000万円の利益があったら、何を最優先に投資するか?」という問いかけが行われました。
選択肢は以下のように、院長のビジョンによって多岐にわたります。
- 人への投資: スタッフへの還元(昇給・賞与)、人材採用、教育
- 医療への投資: 医療機器の導入、新しい医療への挑戦(自費診療など)
- 組織・経営への投資: 広報・広告、分院展開、内部留保、借入返済、院長報酬
この問いに「たった一つの絶対的な正解」はありません。大切なのは、自分のクリニックのフェーズを見極め、「何のためにその投資を行うのか」という明確な経営の優先順位(軸)を持つことです。
【事例】伊勢呂先生のリアルな利益の使い道
数々のクリニックを展開し、経営を軌道に乗せてきた伊勢呂先生は、これまで出た利益を以下のような循環で「未来への投資」に充ててきました。
まず、「人材採用」と「スタッフへの還元」に投資して強固なチームを作ります。次に、CTや内視鏡といった「設備投資」に加え、幹細胞やエクソソームなどの「新しい医療への挑戦」を行い、クリニックの提供価値を高めました。さらに、YouTubeやHPを活用した「情報発信」に投資して集患を強化し、得られた利益で「分院展開」という成長投資へと繋げています。
利益があったからこそ、これらすべての挑戦が可能となり、結果としてより多くの患者を救い、スタッフが豊かになる好循環が生まれているのです。
結論:利益はゴールではない。理念を実現するための「手段」である
多くの院長が日々悩む「判断の孤独」の背景には、経営の拠り所となる「明確な哲学」の不足があります。
伊勢呂先生は、自身の強い信念として次のように断言します。 「利益を残すこと自体が目的ではない。利益は、未来への投資である」
- 大切なスタッフやその家族の生活を守るため
- より質が高く、より良い医療を目の前の患者に届けるため
- クリニックを次のステージへと成長させ、新しい挑戦を続けるため
これらすべての理想を具現化するために、利益という名の「原動力」が必要不可欠なのです。
「利益はゴールではない。理念を実現するための手段である」
手に入れた利益を、何のために、どのような想いを持って使うのか。そこにこそ、院長自身の「経営理念」と「哲学」が如実に表れます。
1人で抱え込んで悩むのではなく、同じ志を持つ仲間が集まるコミュニティでこうしたリアルな課題を共有し、横のつながりを増やしていくこと。それこそが、これからの激変する医療業界をたくましく生き抜く院長にとって、何より大切な最初の一歩となるでしょう。

2026年7月12日(日)開催
